私はニューヨークにあるKDDIアメリカ本社で企業向けネットワークの構築・整備をする仕事に従事していました。フロリダでの学生生活から数えて、12年目となる2007年春、家庭の事情により退職し、日本に帰国しました。妻とは2000年にニューヨークで出会い、翌年結婚しました。
帰国後、せっかくの転機だから、思い切って農業でもしてみようかと思い、インターネットで研修先を探しました。当時は農業ブームが起こる前だったこともあり、ネット上で農業研修に関する情報はほとんど手に入りませんでした。唯一、熊本にあるNPO法人のサイトで研修生募集の案内があり、数日間の農業体験を経て、研修生として農業を学ぶことになりました。その後、更に大分県にある有機JAS認定を受けている家族経営の小さな農家に移り、有機栽培を学びました。
そして、2009年の夏に伯耆町にIターンして就農。現在は妻と4歳の子供とともに、少量多品目で有機野菜を栽培しています。2010年10月に伯耆町では初めてとなる有機JASの認定を受けました(2012年現在、鳥取県で有機JASの認定を受けているのは僅か26経営体のみ)。有機JASとは化学農薬、化学肥料、遺伝子組換え種苗を3年以上使用せずに作物を栽培し、生産・収穫・出荷・流通過程においてそれらによる汚染のないことを毎年国の認定機関によるチェックを受ける、日本で唯一の統一ガイドラインです(※各自治体ごとの認証制度は無数にあります)。
有機農業の正否を左右するのは、いかに良い環境(特に作物が育つ土)を作ることができるかどうか、だと考えています。
農薬を使うと病害虫だけではなく、カエル、ミミズ、クモ、カマキリ、てんとう虫などの有益な小動物や虫たちも一緒に殺してしまいます。また、土壌環境を良くしてくれる微生物を殺してしまうのです。生態系のバランスが崩れた土で作物を育てようとすると、どうしても無理があるので、農薬や化学肥料に頼ってしまう、そいう悪循環に陥ってしまうのではないかと考えます。だから、私は農薬は全く使用しません。
化学の力は使わず、科学の力を使います。畑の状態は本当に千差万別。同じ圃場でも端と中央では土質が全然違っていたりします。土壌分析をして土の状態をなるべく正確に把握して、有機肥料も過不足無く与える。そして土のバランスを保つ。これは科学の力を借りなければできないと思います。有機農業こそ、もっとも科学の力を必要とする農業だと考えます。また、混植、間植、輪作などを取り入れ、豊かな生物性を確保するなど、先人の知恵と現代の科学を使う「温故知新農業」こそが有機農業の真髄だと思っています。
この地で有機農業を始めて数年、農業だけではなく、様々な分野でこだわりを持つ「食」の生産者さんたちと知り合うことが出来ました。そして、普段から野菜を置かせていただいています、クレイさんを会場に、みんなで朝市を開きたいという私のワガママを皆さんが快く引き受けて下さって、2011年の秋にファーマーズ・マーケットを開催することが出来ました。
本当の安心・安全は消費者と生産者の信頼関係にあります。普段、あまり接する機会の無い、生産者と話ができる場として、これからもファーマーズ・マーケットを続けていきたいと思っていますので、どうぞよろしくお願いします。
ご注意ください
このページの内容は取材当時のものです。この記事をお読みになっている時と内容が異なっている場合がありますこと、ご了承ください。
[写真/文: 森藤]